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夜回り2.0は時代遅れ

(こちらのコラムは2015年11月分の御報告に寄付者の方にお送りした
メールマガジンを一部加筆編集したものです。)
 

1953年の事です。
イギリスの牧師、チャド・バラ―氏のもとに
14歳の少女からの電話が入りました。
 

チャド氏は悩みを抱え電話をかけてきた
その少女と翌日面接の予定でしたが
翌日、彼女会う事はありませんでした。自殺で亡くなったのです。
 

その後、その死を悲しんだ
チャド氏は一つのアイデアを思いつき実行します。
 
自分の名前を番号と、新聞に広告として載せ
悩んでいる人に呼び掛けたのです。
 
チャド氏のアイデアとその行動には
大きな反響があったようで、
賛同者も多く集まり、チャド氏はこれを組織化し
「サマリタンズ(よき隣人)」を設立しました。
ボランティアで誰でも参加できることから爆発的に
広がっていきました。
 
我が国でもチャドに活動に賛同した人たちが
始めた「いのちの電話」は皆さんご存知かと思います。
 
今、世界的にホットラインサービスがあるのは
彼のとった行動が始まりでした。
 
チャド氏が新聞に広告を打ったのは
約60年前、1953年の事です。
 
彼のアイデアは当時先進的だったはずです。
 
まず、広告を打って相談を受ける、
つまりマスマーケティングで
ハイリスク者に情報を届けるという発想がそうでした。
また当時、最新のコミュニケーションツールである「電話」を
使って悩みある人の相談を匿名で受けるという発想は
(現在ではごくごく当たり前でも)なかったのでしょう。
 
私はちょうどその60年後の
2013年6月末に「死にたい 助けて」の検索履歴を見つけて
2週間後の7月14日に新聞社ではなく、
Googleに広告を出稿しメールを受信しました。
検索行動に注目し、自殺ハイリスク者を
いわば一本釣り(ダイレクトマーケティング)しようとしたのです。
 
1953年と比べて時代は大きく変化を遂げました。
「万物は流転する」わけですが、
情報革命により凄まじいスピードで情報が交換され、
人々の道具、興味関心、ニードは
儚くも猛烈なほどに移り変わっていきます。
 
私は自殺予防のサービスであれ、
その時代を生きる人々のニードにあわせた、
すなわち徹底的にユーザー側から考えた
製品・サービスを作る必要があると考えています。
 
自殺予防のための相談サービスであれ
プロダクトライフサイクルはあるかと思います。
(ここでは「春夏秋冬がある」くらいの
意味合いで理解して頂ければと思います。)
 
私自身、周囲の人に「先進的な取り組みだ」と
評価され始めたころから一部の周囲の人に
「我々の取り組みは”すでに時代遅れ”である」と漏らし
更なる進化、すなわち真に自殺の危機にある人への効率的なリーチ方法
かつ自殺予防的に真に効果的な対応は、と
ずっと考え続け、1日たりとも学びと実践を欠きせませんでした。
 
OVAは10年後に今と全く同じスキームでやっていることは
まず絶対にないでしょうし、あってはいけないと考えています。
 
私達は常に時代に応じて進化・変容し続けたいので
宿命的に今まで自分がつくったものを批判する態度を原則持っています。
それは結果他人が作ったサービスを否定するということでもあります。
 
(これは、チャド氏をはじめ
今までに取り組みをしてきた方への
敬意や感謝の念と矛盾したものではありません。)
 
2013年活動を始めときGoogleに
「死にたい」と打っても支援をする側の広告は出ませんでした。
だから、広告で埋め尽くされる未来を想像しました。
 
それは2015年には少し実現されたと言っていいかと
思います。模倣した団体は多いですし、2015年より
Google自体が出し始めました事も大きいです。
内閣府、東京都も広告を打っています。
 
これらは
「自殺の方法を(認知的に)制限する」という意味で
効果が期待されます。
 
しかし、これだけでは当然足りません。
成すべきことはあまりにも山積みでです。
 
OVAは「自殺対策をする/悩みを抱えた人を支援する」事が
目的ではなく、「自殺に追い込まれる人をなくす(限りなく少なくする)」事が
目的ですから、広告打って、永続的に相談事業をし続けるだけで
終わらせるつもりもありません。
 
私たちは彼らの声を実際、毎日きいているわけですから、
それを社会にフィードバックをすること、
つまり現状の自殺対策のシステムそのものを
よりよくしていかなければいけないということです。
 
ですが、一人の人間、団体にできることは限られていますから
他の団体と協同しながらも役割を果たしていきます。
 
今月の下旬から今までやってきたことや考えを再点検した上で、
2016年より変容させるべきこと・させないべき事を検討したいと思っています。
 
NPO法人OVA代表
伊藤次郎


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