この文書について
AIをはじめとする技術が急速に発展し、社会のあり方が大きく変わっていくなかでは、新たな社会的課題や、これまで見えにくかった困難が生じることが予想されます。
特定非営利活動法人OVA(以下、OVA)は、人間が担うべきことと、AIを活用できることを見極めながら、AIを積極的に活用することで、変化する社会においても支援が届く仕組み、AI時代のセーフティネットづくりに貢献することを目指します。
OVAが支援を届ける相手は、生きづらさや困難、孤立の状態にあるなど、自殺リスクが高く、必要な情報や適切な支援との接点を必要とする可能性のある人(以下、支援対象者)です。
本原則は、AIを活かしながら、その活用に伴うリスクから支援対象者の安全や尊厳・権利を守るための、OVAの基本的な考え方を示したものです。
【単語の定義】
AI(Artificial Intelligence、人工知能):人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術並びに入力された情報を当該技術を利用して処理し、その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律第2条に定める「人工知能関連技術」の定義より)
1. 適用範囲
本原則は、OVAの事業、支援活動、研究、広報、組織運営その他の業務における、AIの活用全般に適用します。
対象には、外部のAIサービスや生成AIツールの利用、業務に組み込まれたAI機能の利用、OVAが独自に設計・開発・運用するAI関連の仕組みを含みます。
委託先や協働先との業務でAIを活用する場合においても、必要に応じて本原則の考え方に沿った対応を求めます。
2. OVAにおけるAI活用の基本姿勢
OVAは、いかなる場面でも、支援対象者のいのちと安全を守ることを前提に、その最善の利益の実現を目指します。
そのうえで、AIを、「助けて」と言いにくい人に支援を届けるための重要な手段の一つとして位置づけ、その活用の責任を引き受けます。
AI活用の目的は、支援が届く範囲を広げ、支援の質を高め、一人でも多くの「声なき声」に支援を届けることです。
3. 基本原則
原則1: 【人間主体】 判断と意思決定は、人間が担う
AIは、支援を届ける力を広げてくれます。しかし、その支援の先にいる一人ひとりに向き合い、必要な支援を判断することは、人間が担うべきであると考えます。
OVAは、AIを、人による支援を補助・拡張する手段と位置づけますが、最終的な判断と意思決定は人間が必ず担い、その責任は人間と組織が負います。また、相談支援など、支援対象者と直接やりとりする場合は、AIの出力をそのまま用いません。
原則2: 【安全重視】 いのちと安全を最優先にする
AIは業務の質を高め、支援者の負担軽減に役立ちます。ただし、対人支援においては支援対象者の安全や尊厳・権利を守ることが大前提となります。
OVAは、これらを損なうことなく、いのちと安全を最優先にして、AIを活用します。また、AI活用によるリスクを評価し、重大な危害が見込まれる場合、またはリスクを十分に下げられない場合は、AIを利用しません。
原則3: 【公平性の確保】 不当な差別や不利益を防ぐ
AIには、学習データに含まれる人や情報のバイアス、設計や評価方法の影響により、特定の属性や状況にある人に対して、不適切な出力をするおそれがあります。このようなバイアスによって、不当な差別や不利益が生じ、「声なき声」にさらに支援が届きにくくなる懸念があります。
OVAは、公平性を損なうおそれのある点を評価し、差別や不利益が生じないように、AIを活用します。
原則4: 【こどもの保護】 発達の途上にあるこどもを守る
こどもは、その年齢や発達の程度に応じて、言葉の受け止め方や影響の受けやすさが成人と異なり、「助けて」と伝える力も成長の途上にあります。AIはこうした特性を見分けられるとは限らず、成人と同じように応じることが、こどもに深刻な影響をもたらすおそれがあります。
OVAは、こどもの最善の利益を優先し、成人以上に慎重に安全性を確かめ、こどもの成長を損なうことのないよう、AIを活用します。また、こどもの年齢や発達の程度だけでなく、一人ひとりの状況を踏まえ、必要な保護や支援を行います。
原則5: 【依存の防止】 人や社会とのつながりを促進する
AIとの対話は身近な支えになる可能性がある一方、それだけに頼れば、現実の人や社会から遠ざかるおそれがあります。AIはいつでも応答するからこそ依存が深まりやすく、孤立につながることも懸念されます。
OVAは、AIを人とのつながりに置き換えるのではなく、現実の人や社会資源とのつながりを促進するための手段として活用します。
原則6: 【プライバシーとデータ保護】 扱う情報を限定し、機微な情報を守る
対人支援の場面で扱う情報には、一人ひとりから打ち明けられた、機微性の高い情報が含まれます。その取扱いには、関連する法令・ガイドラインの遵守にとどまらず、対人支援領域に求められる高度な倫理観に基づく管理が必要です。
OVAは、AIで取り扱ってよい情報の範囲と機密性のレベルをあらかじめ定め、支援に必要な範囲に限定します。また、組織のプライバシーポリシーに即した活用をします。
原則7: 【セキュリティの確保】 AIのセキュリティリスクを評価し、運用・管理する
AIの利用は、外部からの攻撃や予期しない不具合により、情報の漏えいやAIの停止・誤作動といったAI特有の新たなセキュリティリスクを生みます。
OVAは、AIのセキュリティリスクを継続的に調査・評価し、その時点の技術水準に照らして合理的な対策を講じます。また、あらかじめ定めたセキュリティ基準を満たしたAIのみを利用します。
原則8: 【透明性の確保】 AIの関与を開示する
AIがどの場面で、何のために使われているのかが見えないままでは、信頼されるAI活用は成り立ちません。
OVAは、AIの関与が人の重要な判断や尊厳・権利に影響する場合、その場面と目的を開示します。また、公表物の作成にAIを利用した場合には、その関与の程度や内容に応じて、AIが果たした役割を明らかにします。
原則9: 【説明責任】 責任は人間と組織が負う
AIが出力に至る過程は複雑で、その理由を十分に説明できないことがあります。AIをどのように用いて判断したのかがわからなければ、問題が生じたときに検証し、適切に対応することができません。
OVAは、AIを活用した場合でも、判断の経緯を記録し、後から説明できるよう管理します。その経緯を説明する責任主体は、AIではなく人間と組織です。
4. 原則の実現
原則を掲げるだけでは、責任あるAI活用は実現しません。OVAは、原則を実行できる状態を組織として整え、ガバナンス体制・教育・評価の三つの面から、次のとおり運用します。
4-1. AIガバナンス体制
AI活用では、誰が何をどのように判断し、誰が責任を負うのかを、あらかじめ明確にしておく必要があります。
OVAは、AI活用を監督し、最終的な判断と責任を負う体制を組織のなかに定め、活用状況とリスクを継続的に調査・評価します。問題が見つかったときは、支援対象者のいのちと安全を最優先に、AI利用の停止も含めて対応し、経緯を記録して再発防止につなげます。
4-2. 支援者・職員のAIリテラシー教育
責任あるAI活用は、AIを使う支援者・職員一人ひとりの理解と判断力に支えられます。
OVAは、支援者・職員がAIの特性・限界・リスクを理解し、AIと適切に協働できるよう、学びの機会を継続的に設けます。AIと適切に向き合う姿勢を、組織全体で育て続けます。
4-3. 評価と改善
AIは急速に発展し続ける技術であり、その活用が有効で安全であるかは、技術の変化や運用の実態に応じて、確認を継続していく必要があります。
OVAは、AI活用の方法・範囲・安全性を定期的に評価し、必要な改善を行います。あわせて、法令や社会的要請の変化、OVAの事業展開を踏まえ、本原則と体制そのものも評価し、必要があれば改定します。
本原則の策定におけるAIの活用について
本原則の策定にあたっては、国内外のAIに関連する各種原則・法令・ガイドライン等の調査や、文章の起草・添削などに生成AIを用いました。内容は、OVA職員による複数回の委員会での討議と、全職員を対象とした意見募集を経て、修正・決定いたしました。
初版公開日:2026年9月8日
特定非営利活動法人OVA
