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ウェルテル効果をどう抑制するか。自殺報道発生時の情報発信で得られた成果と今後

NPO法人OVAでは、有名人の自殺報道が拡散された際に自殺者数が増加する事象として知られる「ウェルテル効果」を抑制するための活動をX(旧Twitter)で実施しています。

世界保健機関(WHO)は、自殺予防を推進するためメディア関係者に向けたガイドラインを策定することで、ウェルテル効果の抑制を推進してきました。

いのち支える自殺対策推進センター訳 WHO自殺報道ガイドライン 2023年版より https://jscp.or.jp/action/WHO-MediaProfessionals-2023.html

これにより、大手報道機関ではガイドラインが守られるようになりました。一方で、ソーシャルメディアの普及により、誰もが情報発信の担い手になったことで、インプレッション(表示回数)を増やして収益をあげられるという構造から、人々の目を引くようなコンテンツが個人によって量産されるようになりました。自殺報道は多くの人に関心を集めるため、WHOのガイドラインが遵守されにくい現状があります。

特に X(旧 Twitter)では、リポストやトレンド機能により情報の拡散が起こりやすく、自殺報道に対するユーザーの反応と自殺者数の関連性が示されています(Ueda et al. 2017; Faheyet al. 2018)。このような背景から、OVAはXでウェルテル効果抑制に向けた活動を行ってきました。今回のブログでは、その成果と今後の展開について紹介したいと思います。

プロジェクトの内容

Xにおけるウェルテル効果抑制に向けたプロジェクトは 、2022 年 6 月から始動しました。具体的には、OVA 内でウェルテル効果対策チームを結成し、有名人の自殺報道発生時に公式Xアカウントや特設サイトを通して、セルフケアの情報や相談窓口の紹介等を行いました。アクションの対象は、テレビ出演が多い有名人の自殺報道です。

プロジェクトの歩み

1.Xでの投稿文章・ポスター

本プロジェクトでは、自殺報道発生時にXにて投稿する文章・ポスターを6種類作成しました。投稿はOVAの公式Xアカウントでポストし、特設サイトにリンクをつなげています。

Xにおける投稿内容とポスター

2.特設サイトの運用

ウェルテル効果対策特設サイトでは、セルフチェック 、セルフケア方法の紹介、相談窓口の紹介、グリーフケアの啓発について掲載しています。

ウェルテル効果対策特設サイトのトップ画面

セルフチェックツール
セルフチェックでは、K6(Kessler 6 scale)を用いて精神的健康度を客観的に評価することができます。結果に応じてセルフケアや相談先を紹介し、希望者には回答の2週間後に再チェックのリマインドメールを配信。自分の状態をモニタリングする機会を提供しています。

セルフチェック回答結果画面の例

・セルフケア方法の紹介
12種類のセルフケア方法も紹介しています。周囲の人や相談窓口への援助希求を促し、つらい情報から離れる方法、気持ちを落ち着かせる方法などを挙げています。また、「その有名人との思い出を大切にする、整理する」といったグリーフケアの方法も紹介しています。

特設サイトのセルフケア方法紹介ページ

・相談窓口の紹介
周囲の人(インフォーマルな相談先)への援助希求も促しながら、全国で利用できる相談窓口や、地域ごとに相談窓口を検索できるサイトも掲載しています。

・グリーフケアの啓発
グリーフに関するページでは、グリーフとは何か、こころや身体に生じる反応の例について説明しています。また、グリーフは有名人や似た状況にある方が亡くなった時も起こりうる自然な反応であり、哀しみを受けとめていくケアの方法があることを伝えています。

特設サイトのグリーフに関するページ

3.自動感知システム

自殺報道が発生すると、情報はXのリポスト機能やトレンドによって瞬く間に拡散され、瞬時に影響が広まります。そのため、ウェルテル効果を抑制するには、情報拡散への迅速な対応が求められます。

本プロジェクトでは、自殺報道の発生を素早く把握し対応するため、Xにて自殺報道に関連する用語が増加した際、アラートが通知される「自動感知システム」を開発しました。

実際に活用した事案では、対策グループ向けに自動でメールが送信された後、すぐに自殺報道が発生しているかを調査しました。自殺報道の発生が明らかになった場合は打ち合わせを行い、どのような対策を行うかを議論するなど、迅速な対応に向けた一助となっています。

自動感知システムの流れ

アクションへの反応

特設サイトを2023年7月から公開し、これまでに2回のアクションを行いました。2024年8月時点で、Xでの当該投稿の表示回数は延べ25万回、リポスト数は延べ1,430回となっており、自殺報道発生時に拡散されました。

また、特設サイトのアクセス数は、2024年7月時点で延べ1,300回以上となり、セルフチェック回答者の内、データ分析の同意が得られたのは18名でした。

性別は男性11%、女性72%、その他17%と女性の割合が多く、年代は20代、30代、40代が20%台、10代は0%でした。K6の平均点は12.4点となっており、点数分布は13点以上が56%と多い結果となりました。K6は13点以上が重症精神障害相当と言われており、回答者はメンタルヘルスの重症度が高い傾向にありました。

今後の展開について

「有名人」には普段からテレビに出演する有名人から特定のコミュニティ内で人気のあるクリエイターやアーティストのような有名人と、知名度にグラデーションがあります。国民的な有名人の自殺報道の場合、Xユーザー全体に情報が拡散されている可能性が高いと考えられますが、特定のコミュニティ内で人気のある有名人の場合、OVAがXアカウントでケア情報をポストすることで、自殺報道の存在を広めてしまうリスクがあると考えています。

そのため、Xの広告によるフォロワーターゲティング機能を用いて、ハイリスクな層だけに情報を届けるアプローチを展開していきたいと考えています。加えて、自動感知システムの精度を向上させ、Xの状況をモニタリングしながら、コミュニティ内の自殺報道を早期発見できるよう対策していきたいです。

想定しているターゲティングの範囲

最後に、OVAでは本アクションの効果測定の方法を検討しております。より効果の高い支援策を考えるためにも、もしアイデアや御意見をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひ下記のフォームからご意見いただけますと幸いです。

https://forms.gle/u8YpUPXi5ZJw484E9

参考文献

[1]いのち支える自殺対策推進センター.(2022).「第2回 自殺報道のあり方を考える勉強会~ネット上での拡散への対応とその課題~」開催レポートhttps://jscp.or.jp/action/jisatsu_benkyokai_report211219.html

[2]総務省.(2021).令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査 報告書
https://www.soumu.go.jp/main_content/000765258.pdf

[3]Ryota Sakurai, Yuta Nemoto,  Hiroko Mastunaga,  Hiroko Mastunaga. (2021). Who is mentally healthy? Mental health profiles of Japanese social networking service users with a focus on LINE, Facebook, Twitter, and Instagram. PLoS One. 2021; 16(3)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7928453/

[4]東京都健康長寿医療センター研究所.(2021).<プレスリリース>SNSの利用とこころの健康は関連するか?―LINEの利用とは良好な関連を示すが、Twitterの利用とは負の関連を示すことが明らかに―.
https://www.tmghig.jp/research/release/2021/0304-2.html

[5]Michiko Ueda, Kota Mori, Tetsuya Matsubayashi, Yasuyuk iSawada. (2017). Tweeting celebrity suicides: Users’ reaction to prominent suicide deaths on Twitter and subsequent increases in actual suicides. Social Science & Medicine Volume 189, September 2017, Pages 158-166
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277953617304082?via%3Dihub

[6]Robert A.Fahey, Tetsuya Matsubayashi, Michiko Ueda. (2018). Tracking the Werther Effect on social media: Emotional responses to prominent suicide deaths on twitter and subsequent increases in suicide. Social Science & Medicine Volume 219, December 2018, Pages 19-29
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277953618305707?via%3Dihub

[7]藤代裕之(2014)「誰もがジャーナリストになる時代―ミドルメディアの果たす役割と課題」『間メディア社会の「ジャーナリズム」』東京電機大学出版局.

[8]いのち支える自殺対策推進センター.(2024). WHO自殺報道ガイドライン 2023年版
https://jscp.or.jp/action/WHO-MediaProfessionals-2023.html

[9]厚生労働省. (2020). 映画制作者と舞台・映像関係者の方へ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/who_tebiki_film.html


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