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プライバシーと社会福祉のバランス ー途上国支援の問題から考えるー

OVAの事務局ブログをご覧いただいてありがとうございます。
事務局の土田です。

事務局では、普段より業務に関係する調べものを行っています。
今回は社会的イノベーションの大手誌Stanford Social Innovation Reviewより、人を支援することとプライバシーの関係についての記事を紹介します。
内容は、ずばり「途上国の医療支援は患者のプライバシーを無視してきたので見直しが必要」というものですが、考え方は国内の対人支援にも必要なものかと思います

支援とプライバシーは、社会福祉分野でも非常に重要なテーマです。

本文末で、今回このテーマを取り上げた理由も書いていますので、一緒に見て頂ければ幸いです。

元記事↓↓ International Development Doesn’t Care About Patient Privacy
https://ssir.org/articles/entry/international_development_doesnt_care_about_patient_privacy

途上国支援の現場で何が起きているか

この記事の筆者が支援とプライバシーの問題を取り上げるにあたって、この問題が浮かび上がったきっかけになった2つの出来事を紹介しています。
1つ目は2013年の南モザンビークで、NGO職員が現地のHIV陽性患者の男性への連絡が取れないことから起きたものです。
職員は男性を探すために、彼の住んでいる村の住民に手伝ってもらい、男性の住居まで住民たちと訪れました。
そして住民たちの目の前で、彼がHIV陽性であり治療を受けていることを説明したのです。

それによって、男性は村内でスティグマ、差別、排除を受けて暮らすこととなりました。

同様の出来事は2016年のブルキナファソでも起きています。
NGO職員が支援対象者に対して、対象者同士がいる前で、自分ががかかっている医療サービスを説明することを求めたのです。
これによって支援の対象となっている住民同士は、お互いどのような疾患を持っていて、どのような治療を受けているかを知ることとなりました。

背景にある「成果報酬」という構造

これら2つの事例では、いずれもNGOはPBF(成果連動型報酬)のプログラムの一環として、支援介入を行っていました。
このシステムでは、正確な事業成果を測定するために、実際に支援を受けた方を訪れる「監査」が入ることが一般的です。
WHOは、このような監査実施のガイドラインは作っていますが、支援対象者のプライバシーに関する決まり事は設けてありません。

PBFの監査によるプライバシー侵害は、支援とプライバシーの問題の一部です。
国際医療支援では、結核、HIV、家族計画、人工妊娠中絶などの分野でもプライバシー侵害の問題が見られています。

ある調査(※1)によると、インド、インドネシア、フィリピン、タイのHIV患者の内、34%が医療者によるプライバシー侵害を経験しています。

医療や健康に関する支援を受ける方は、基本的には支援を受けるかどうかを選択できず、また自分の医療情報も自分で管理できません。
このような支援/被支援の構造と、支援者によるプライバシー保護の取り決めがないことが要因となって、このような問題が起きています。

※1 https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/09540120412331299807?scroll=top&needAccess=true&journalCode=caic20

先進国でのプライバシーの考え方はどうなっているのか?

欧米を中心とする経済先進国では、個人情報やプライバシーの保護に関する法律の整備と徹底が進んでいます。
OECDによって1980年にプライバシー8原則というガイドラインが設定され、世界の個人情報保護のスタンダードになっています。
世界各国の個人情報・プライバシー保護の法律の基礎となっており、日本でも個人情報保護法が制定されています。

個人情報やプライバシーの考え方のベースは、アメリカで生まれました。
1890年代に「1人でいられる権利(the right to be let alone)」としてプライバシーの概念が生まれ、1960年代以降は「自分に関する情報をコントロールする権利」に発展しています。

これらの考え方はもちろん医療福祉の現場にも徹底されており、日本では「守秘義務」として医療職種ごとに法律に定められています。

2017年には個人情報保護法の改正があり、最近ではEUでGDPR(一般データ保護規則)が施行されるなど、プライバシーの権利は年々重要視されています。

スティグマに晒させない支援が必要

特定の疾患や健康状態に対する強いスティグマ(社会的偏見)がある社会では、プライバシーの侵害は人の尊厳や命を脅かす可能性があります。
スティグマが強いために医療機関にも行けず、深刻な状態になってから初めてケアを受けるといったことも考えられるでしょう。
国際医療という、緊急性が高くスピードが求められる現場ではありますが、支援/被支援のパワーバランスを意識することや、対象者の尊厳を尊重することは対人支援に必要です。

なぜ今回プライバシーの記事を取り上げたのか?

今回は、国際医療という分野でのプライバシー保護の問題を中心に、成果報酬型、スティグマ、パワーバランスなどについて取り上げました。
これらのテーマはすべてOVAにも関わることであり、パターナリズムが構造的に発生しやすい対人支援分野では非常に重要だと考えています。

OVAが全国40の若者支援団体に実施した「支援を届ける工夫調査」でも、多くの団体がこのような問題意識を持っていることが分かりました。
特にスティグマ(社会的偏見)が、若者を必要な支援から遠ざけていることは大きな課題と考えています。
※この辺りのことは、11月1日の調査報告会で詳しくお話いたします。

そして本題のプライバシーに関しても、私たちは相談活動での体制整備を進めています。
OVAの相談事業は5年目を迎え、自治体からの委託事業なども増えてくるなど、一定の評価と広がりを見せています。
今後OVAとして実施していくだけではなく、他の支援団体も実施できるようにマニュアルや研修の提供も検討しています。
その中で、個人情報に関する体制や仕組みも必要だと考えており、個人情報保護規定の見直しや、スタッフの個人情報保護士資格の取得を進めています。

対人支援を行うにあたって、現場の取り組みと内部の体制の両方で、個人情報やプライバシーに関する動向をチェックして、整備することが大切だと私たちは考えています。

 


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