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若者支援は効果を測れるのか -相談支援の取り組みと限界-

OVAの事務局ブログをご覧いただいてありがとうございます。
事務局の土田です。

今回はOVAの活動の深堀を、若者支援の成果測定という観点から行います。
対人支援、特に自殺予防の相談は、成果を測れるのかというテーマです。

OVAの相談事業と効果測定の現状

OVAの相談事業は、大きく3つのステップに分けることができます。

私たちは、死にたいぐらいつらい気持ちを抱えながら、周囲に言えずに検索する人へ相談支援を届けるために、検索連動広告を使っています。
特定のキーワードを検索した方だけに相談を促す広告を表示し、サイトに誘導してそこからメールやチャット等で相談ができる仕組みです。
相談を受けてからは、精神保健福祉士や臨床心理士などの有資格スタッフが平均2~3か月ほど、時には電話や対面相談を交えながら継続的にやり取りをします。
相談者の多くは、重度の抑うつ状態が見られるにも関わらず医療サービスにつながっていない方です。

相談者へのアプローチは、全てウェブ上から行っています。そのため、広告の表示数やクリック率、サイト上から相談につながった割合など、定量的に把握できるのが特徴です。

これらのウェブを通したアプローチの結果を受けて、広告やサイトの内容の改善を行うサイクルで運用を行っています。

「相談の効果」は測定できるのか?

それでは、継続的に行われる相談の効果を定量的に把握するのは可能でしょうか?
私たちは、現時点では相談の効果を証明することは非常に難しいと考えています。

「相談支援に効果がある」と証明するためには、「亡くなるはずだった方が、相談によって亡くならなかった」ことを示さなければなりません。
そもそも相談支援につながる方が、「亡くなるはずだった」かどうかは未来のことなので、測ることはできません
(「検索する方の○○%が実際に亡くなっている」と実証されていれば推計はできます。)
相談支援を行って「亡くならなかった」としても、それが相談支援のおかげかどうかを証明することができないのです。
証明するためには、RCT(ランダム化比較試験)のような、かなり大規模かつ複雑な実践と研究を並行して行うことが必要になります。

自殺予防は効果を測る難しさを構造的に抱えていますが、OVAでは2013年の活動開始時から大学の研究者と協力して、独自の指標での効果測定を行っています。
短期的に測るために、相談によって
1.感情のポジティブな変化、2.現実の支援機関に行く意思(援助要請意図)、3.現実の支援機関に実際につながった(援助要請行動)

のいずれかが見られた場合を「効果あり」として測定しています。

現状オンライン相談支援の分野では、ネット上から現実の支援機関への活用につながった「つなぎ」が指標として活用され始めています。
ネット上から相談支援を届ける(アウトリーチ)が普及し、孤立しているネット上から現実の問題解決へ、いかに移行できたかが一つの指標になりつつあります。

客観的な成果を測ることはなぜ必要なのか

このように客観的に効果を測定することは、なぜ必要なのでしょうか?
近年、社会課題解決に取り組むNPOを中心に「成果測定志向」が広まりつつあります。
このトレンドは、休眠預金口座の活用で毎年約700億円が社会課題解決に活用されるようになるなど、社会課題解決の取り組みへの評価と、それに対する金銭的な支援が広がっていることにも見られます。

しかしOVAの場合は、このようなトレンド以前に相談支援の質の管理のために客観的な測定が必要だと考えています。
特に社会福祉や対人支援の分野では、どうしても「支援を受ける側が声を挙げづらい」構造が生まれやすくなっています。
普通の営利企業であれば、品質が上がる→顧客評価が上がる→売上が上がるというサイクル(逆もしかり)があります。
対して支援の分野では、当事者による「サービスへの評価」は難しく
そのようなサイクルが生じにくい特徴があるためです。

OVAの活動は、インターネットを活用した自殺予防の取り組みとして評価され始めており、行政での導入も進んでいます。
今後この手法が普及する上で、品質を保つためにも客観的な測定と学術的に検証された発信が必要です。

成果指標型の注意点

対人支援における成果志向には注意も必要です。
例えば、つなげることが最優先の指標になり、成果指標の達成が優先されるようになると、つなげることありきの支援になりかねません。
そのような支援が当事者のメリットになるのかを考える必要があると考えています。

私たちは、支援の質を高めつつ、オンライン相談の手法を普及させるために、客観的な成果の測定と、学術分野での発信を今後も行っていきます。

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執筆者
事務局ファンドレイザー
土田毅 プロフィール


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