事務局スタッフブログ

OVAは誰に相談支援を行うのか?ー「リスク」と「ターゲティング」の考え方-

OVAの事務局ブログをご覧いただいてありがとうございます。

今回のブログ記事は、OVAの取り組みを深堀する内容です。
私たちの活動の基礎にある「ハイリスク者」と「ターゲティング」の考え方についてお話します。
困っている人へのサポートは、「できるだけ広く皆に行き渡るべき」という考え方が一般的かと思います。
今回は、私たちがあえて相談の対象者を絞っている理由と考え方についてお話します。

「死にたい人の見える化」はどう始まったか

OVAの相談は2013年に、代表伊藤が1人で始めました。
「若者の自殺が深刻である」というニュースを受け、メンタルヘルスにかかわる仕事をしていたこともあり、若者が相談しやすいオンライン相談を始めようと思いました。

そこで大きな課題になったのが、「死にたいと思っている若者とどうつながるか」です。
「生きる上での困難」という目に見えない課題を抱え、周囲に話せる環境がない若者を、どう見つければいいのでしょうか?
まず考えられたのは、若者に相性がよさそうなスマホ検索でのアプローチです。

当時から検索エンジンへの広告掲載は、ビジネス分野では一般的でした。
例えば、美容室を検索した人に近くの美容室の広告を出して利用を促すような仕組みです。
何かの情報を探している人に、ピンポイントで関連性の高い広告を表示し、行動(購入)を促せるメリットがあります。

この仕組みを活用できると考え、事前に「死にたい」がどれだけ検索されているかリサーチしたところ、月間約20万弱の検索が行われていることがわかりました。
生きづらさを抱えて、ネットで検索する人が膨大にいることがこの時点でわかったのです。
さらに調べてみると、自殺に関する検索と実際の行動に関連があることも既存の研究(情報疫学)から分かり、リスクが高いことがわかりました。

ネット検索を行うハイリスクな方に支援が届いていないことが、最大の問題意識として浮上しました。
このような方をハイリスクだと考え、ハイリスク者への支援に特化するために、検索連動広告を活用したアプローチを始めました。

効果・意義と限界

「死にたいと考えて周囲に相談できずスマホで検索する若者」につながるために、私たちは検索連動広告からのみ相談を受け付けています。
検索行動に情報を届けることで、「死にたい」と考えているが周囲に言えない人だけをスクリーニングしているのです。

この仕組みの効果は、実際に相談いただく方の統計からも見られます。
私たちがつながるのは、様々な生活課題を抱えながら周囲に助けを求められない方が中心です。
相談者の多くは、抑うつ状態であったり、生活上の具体的な問題を抱えていますが、医療機関や社会資源につながっていない方です。
年代も30代以下が中心となっており、若者に効果的にアプローチできています。

情報を届けたい相手をハイリスク者にターゲティングし、価値観や行動パターン(スマホ検索で情報収集する)を想定した結果、今までつながることができなかった人に相談支援を届けることを可能にしました。
私たちの最大の問題意識である「既存の支援が届かない、ネット検索を行うハイリスクな方」につながることが可能になったのです。

新しい効果的な取り組みとなった反面、全国で検索されている月間20万回以上の「死にたい」全てに相談を提供できておらず、現状は地域を限定しています。
情報を届けることはある程度自動化できますが、相談を受け付けるのは生身の人間です。
4年間で700名以上の方に相談を提供してきましたが、今後は相談受付の体制を拡大して、キャパシティを上げることが課題になっています。

このモデルが与えた影響 ーマーケティング技術×福祉ー

私たちの取り組みは、ネットで困っている人につながり、現実の資源を使いながら問題を解決するモデルとして、一定の評価を頂けるようになりました。
検索連動広告で困っている人とつながる仕組みは、性被害やホームレス状態など、福祉の他の分野でも活用されています。
特に困ったときに情報を探す力が弱っていたり、抱えている問題を周りに言えない方たちとの相性の良さが表れているかと思います。
このような困りごとを抱えた方の心理を踏まえて情報を届けられるので、今後も広がることが予想されます。

従来通り、広く皆に情報を届けることも必要です。
それに加えて、今までの方法では届かない方たちをターゲティングして分析し、相性の良い手法で情報を届ける必要性を、OVAとしても広めていきます。

今後の展望 -さらなる手法の研究と改善-

今後もOVAはハイリスクな方につながり、支援を届けることを意識して相談活動を行っていきます。
現在はこのような方につながるために、彼らと相性がよく、実績もある検索連動広告を活用しています。
しかし、マーケティング技術・ICT・アドテクノロジーは日々進化しています。
これからも効果的に困っている人に情報を届けるためには、さらなる研究と事業の開発が必要です。

私たちの活動は、相談事業が始まった2013年から、個人の方のご寄付に支えられています。
事業自体は自治体も実施するようになり、委託などで予算化されて、団体としての財政基盤となっています。
しかし、さらに効果的な支援の提供のために、新しい手法の研究や開発、そしてそのための資金が必要です。
これからのOVAの活動を拡大し、より多くの困っている人にサポートを届けるためにご支援頂ければ幸いです。

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