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海外の自殺対策の事例 ー英国の独特な法律と司法制度ー

事務局ブログをご覧頂きましてありがとうございます。
事務局の土田です。

先日、英国で自死遺族支援を行う団体の方と代表伊藤が意見交換を行いました。
その中で英国の自殺対策の現状についてお話を伺えたので、少し紹介いたします。
Brexitが話題になるなど、ヨーロッパの中でも少し独自路線な印象を受ける英国ですが、どのような取り組みが行われているのでしょうか?

自殺対策に関する政策・法律がない

日本では2006年に自殺対策基本法が制定され、国と地方自治体が自殺対策に取り組む体制を整えています。
90年代のバブル崩壊後に自殺者数が急増したことをうけ、自殺が個人の問題ではなく社会の問題として認識されるようになりました。
このような自殺対策に関する法律が制定されている国は、世界的にも珍しいです。

英国ではそのような法律は制定されておらず、国や地方自治体が取り組む体制は整っていません。
半面、サマリタンズのような大規模で歴史のある民間団体が多数存在したり、政府によるメンタルヘルスプログラムへの支出が行われるなど、対策が行われています。
(今回意見交換した方は、日本のような法律や政策の策定を英国でも進めたいそうです。)

また先日、自殺予防担当大臣の新設※1が発表されました。
意見交換した方によると、大臣の新設によってメンタルヘルス対策の強化の促進に加えて、自殺対策に関する議論を活性化したい狙いがあるそうです。

※1 朝日新聞「英国、自殺予防担当相を新設 首相『現状は変えられる』」https://www.asahi.com/articles/ASLBC0BNWLBBUHBI03R.html

英国の独特の事情

お話を伺う中で、メンタルヘルスや若者の生活課題に関して、多くの問題が共通していることがわかりました。
その反面、英国独特の文化や慣習、法律からくる事情も多くあります。

企業連携で遺族のケアを行う

お話を伺った遺族支援の団体は、遺族の方の心や生活環境のケアを提供しています。
ロンドンを拠点としている団体ですが、地方の方に支援を提供できないことが課題だそうです。

そこで、英国内の葬儀社と提携して葬儀会社の従業員を教育し、全国どこでも必要なタイミングでケアを提供できる体制を整えたそうです。
葬儀会社4社が全国の8割のシェアを占有しているため、企業との連携によって非常に効果的にケアを届けることができています。

晒される司法システム「死因審問」

ネガティブな事情として、コロナ―法(Coroners Act)※2とゴシップ文化が挙げられます。
司法の制度では、特定の条件下で亡くなった方に関して、日本と同様検死が行われます。
その後さらに特定の条件(刑務所内、労働が関わる、公衆に影響がある等)を満たす場合、一般市民の陪審員を交えた「死因審問」が行われます。
審問では、検死官や親族などが召喚され、本人がどのような経緯で亡くなったのかを事細かに究明するやり取りが行われるのですが、もちろんこれは親族の負担が大きく問題になりつつあるそうです。

さらに、この審問は原則公開されているため、報道機関や一般市民が自由に傍聴することができることも特徴です。
高級紙と大衆紙のすみわけが強い英国では、ゴシップネタに強く報道ガイドラインを遵守しないような報道機関も存在し、センセーショナルで詳細すぎる報道も非常に大きな問題になっているそうです。

※2 http://www.bclaws.ca/civix/document/id/complete/statreg/07015_01

社会課題が多すぎて手が回らない現状

このように、英国の自殺対策は法律や政策面で取り組みはまだ多くなく、民間団体が中心になっており、司法・文化的な問題も存在します。
解決に向けて政府が注力できない理由として、社会福祉分野の他の問題が多すぎるという課題もあるようです。
失業率の高さ、ホームレス状態、移民問題、メンタルヘルス、ドラッグ等、社会福祉や包摂が関わる分野の問題が長らく存在しています。
いずれも間接的には自殺という問題が関わる分野です。今後これらが個人の問題ではなく社会の問題として取り組まれることが期待されます。

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